感染症は、病原体と宿主の相互関係により成立する。従って、感染のメカニズムと病態およびその治療法の研究には、病原体自体の解析と宿主側の防御機構(免疫)の解析が重要なことは自明であるが、さらに踏み込んで病原体と宿主個体レベルでの相互作用を解析することが必要とされる。このためには臨床でのデータの蓄積のみならず、適切な代替実験方法がない場合には、動物実験による解析と検証は不可避のものである。微生物病研究所では、設立当初より感染症研究における動物実験の重要性を認識するとともに、それらの実験が安全で正確にしかも適正に行われることが必要であると考えている。本施設は、このような考えから国内で唯一の感染動物実験施設として昭和42年に設立された。その後も、時代に即応した運営を目指しながら、当研究所の感染症研究を支えている。なお平成21年に、免疫学フロンティア研究センターの動物実験施設が新設されて以降、両部局の担当教職員が一体となって運営に当たっている。なお、令和元年には老朽化した旧A/B棟を廃止して新A棟を新設した(大阪大学微生物病研究所附属感染動物実験施設規程 )。
図1 感染動物実験施設
融合棟屋上より施設を望む。A棟・煙突の手前・昭和42年竣工2階建、B棟・煙突の右・昭和53年竣工4階建、C棟・A棟の右奥・平成21年竣工4階建)。
動物実験の実施に際しては、①安全であること、②再現性のある正確な実験が行えること、③無駄なく適正に行われることが重要である。当施設では特定病原体を排除したSPF環境を整備するとともに、動物実験に対する適正な情報を研究者と共有することを通して、円滑な施設運営を目指している。さらに遺伝情報実験センター・遺伝子機能解析分野 と協力して、発生工学を応用した遺伝子組み換え動物の作製支援や、生殖工学を応用した系統維持により、最先端の研究が実施できる体制を整えている。
図2 グリーンマウス
当施設で作製された発光クラゲ由来の緑色蛍光たんぱく質(GFP)が組み込まれたトランスジェニックマウス。哺乳類にGFPを導入した世界で初めての例であり、これまでに世界中の1000をこえる研究室で使用されている。